発芽した苔ポンの植え替えについて

植え替えは園芸最大の難所です

当ウェブサイト内で度々触れていますが植物を種子から育てることを「実生(みしょう)」といいます。

発芽した苔ポンは園芸、農業の世界で専門的には実生苗ということになるのですが、この実生苗の植え替えについてしばしばご質問が寄せられますので以下に実生苗の植え替えについて紹介させていただきます。

植え替えは、こうすれば絶対に大丈夫という方法が確立されておらず上級者やプロであっても全ての植え替えを成功させることはできていません。

ここで紹介している方法も完全ではありませんのでそのことを踏まえた上でお読みいただければ幸いです。

1. 発芽までのおさらい

芽が顔を出す

苔の中から芽が覗き始めます。正確には根の一部か茎の一部がつややかに苔の合間からせり出してきます。クロマツやヤマモミジの場合、太さ1mm弱の茎もしくは根です。

頭が持ち上がる

種子の殻をつけたまま葉が持ち上がってきます。殻は自然に落ちますので無理に引っ張ったりするのは厳禁です。殻は意外としっかりと付着していますので葉ごとちぎれたり茎が折れたりする可能性大。

プラカップを取り外す

芽が生長し頂芽がプラカップに当たるようになったら、プラカップを取り外します。プラカップを取り外した後は乾燥しやすくなりますので水やりの頻度を増やします。

インターネット上の苔ポン栽培記録でよくお見かけするのが、購入後すぐにプラカップを外しておられる様子です。カップを外すタイミングは無料配布の説明書に記載してあるのですが、小さくて見つけづらいため気づいていただけていないようです。※改訂しました。

葉が広がって、茎が伸び始める

葉が展開し始め、それに伴い茎の生長も盛んになります。この時、あまり光量が少ないとヒョロヒョロと徒長し樹体が不安定となります。かといって光が強すぎると急速に水分を失い干からびてしまいますので、常にスダレ越し程度の半日陰の日照を心がけてください。

樹体の表面が全体的にクチクラ層という比較的硬い膜に覆われ始めたら最初の峠を超えたといっていいでしょう。植物の種類によって様々ですがこの段階ではたいていの場合、茎が褐色に変色することが多いです。

2. 植え替えのしかた

植え替えの適期

桜が散って少し経った五月雨の時期から梅雨。つまり気温と湿度が高い時期です。とはいえ真夏は避けます。できれば6月上旬には済ませ生長期である7〜8月になる前に新しい鉢に馴染んでいるのがベストです。あまり遅れるとせっかくの一夏を無駄にしてしまいます。

苔を取り除く

ピンセットまたは箸を用いて鉢から苔を取り出します。まだひ弱な茎をうっかり折ってしまわないよう細心の注意が必要です。茎がポキンと折れてしまったらほとんどの場合復活はできません。

若苗を土ごと鉢から押し出す

鉢の底にある水はけ穴から棒状のものを押し込みながら、樹体を土ごとそっくり取り出します。苔ポンの鉢は上窄(すぼ)まりの形状ですので、その作業は少し難航するかもしれませんができるだけ元の土の形を崩さず取り出せるように試みてください。

ハイリスクな高等テクニック「直根切り」

茎と直接繋がっているいわば根の幹を直根と呼びます。小品盆栽に仕立てるべく樹体の上丈を抑えたい場合、ごく早い段階でこれを3割〜4割程度きってしまう「直根切り」という処置がありますが、それでなくとも植え替えに弱いカエデなどの直根をきってしまう場合その成功率はとても低いです。

抜き苗には絶対にしない

抜き苗(ぬきなえ)とは根を水洗いして用土を完全に取り除いた状態の苗のことですが、この状態には決してしないでください。抜き苗による植え替えに耐えられる植物もありますが、マツやカエデは不用意に抜き苗にしてしまうとその後、しばらくして枯れてしまうことが多いからです。

植え替えは難易度が高く、園芸家泣かせであることから様々な方法が試されており、どの方法が良いかについても園芸家ごとに違います。同じ種類の植物の植え替えでも人によって結構意見が違います。

発芽が1本であれば用土をそっくり植え替え先の鉢に移します。何本か発芽している場合は周囲の用土を分割して、根の周りの用土をできる限り残しつつ用土ごと株分けします。

植物にバレないように植え替える

私見ですが、実生苗の植え替えでは当分の間はその植物が植え替えられたことに気づかないような植え替えが成功率が高くなっています。

根をほぐしたり切ったりせず、鉢から抜き取って植え替え先の鉢にポンと置くだけ。そんなイメージです。

剪定などで樹体に適度なストレスを与えるのは生長ホルモンの分泌を促し生長を活発にすることはよく知られていますが、発芽まもない実生苗での無理は禁物です。

通気性がよくなりすぎないようにする

水はけと通気性は鉢植えの植物を育てる上で非常に重要な要素ですが、幼苗の場合これは必ずしも当てはまらないようです。

根の旺盛な発育には土中の酸素が必要不可欠ですがこれを優先するあまり通気性を確保しすぎると必要な水分を保つことができず徐々に衰弱していずれ枯死してしまいます。底穴が大きめで通気が確保できているのであれば周囲は通気性ゼロのビニールポットでもよいくらいです。(西日本での経過観察による判断です)

2回目の植え替え

3年目の晩春から梅雨どきまでの間に2回目の植え替えをします。

密集した根をほぐす

植物の種類を問わず根が鉢底で巻いていることが多いですがこれは鉢底の方が酸素が多かったことを物語っています。

それ以外の箇所の根と比べ著しく発達した鉢底の根を見るにつけ、根の生長にとっていかに酸素が重要な役割を果たしているかを実感できます。

側面をほぐす

干からびたような褐色の根が側面で固まっている場合は木製の割り箸で軽く解きほぐします。決して力をかけず軽くなでるようにしただけでほぐれる範囲で行います。

上面の角をほぐす

上面の土の外縁部に角が経っている場合これをならして丸めて置くことで若干ですが表土の面積が増え、植え替え後の鉢で酸素を取り込みやすくなります。

2つめの鉢

2回目の植え替えでは通常の盆栽でよく使用されている釉(うわぐすり)を塗布していない烏泥の盆栽鉢を使用しています。

釉とは光沢感のあるガラス状のコーティング剤でこれが塗布された鉢は持ちがとてもよくなるのですが通気性、通水性は低いので環境と植物によって使い分けます。

植物栽培のコツは「いかに根を育てるか」にかかっています

苔盆栽用の用土の作り方

盆栽用土は2〜3種類の底床材を混ぜて作るのが一般的です。日本国内でも西と東でその配合や材料が異なるようなのですが、ここではそのどちらにも属さず、また一般的な盆栽用土の作り方とは随分と異なる苔の八百鉢オリジナルの用土の作成方法をご紹介させていただきますので、一つの参考としてご覧いただければと思います。

苔盆栽、苔付き盆栽の用土は一般的な盆栽用土とは全くの別物

苔が枯れてしまう要因はいくつかありますが、最も見落とされがち且つ認知されていない要素に「通気性が良すぎる」というものがあります。

苔類は全般的に蒸れに弱くある程度の通気性が必要ということが知られています。しかし、通気性が良すぎるのもまた苔を褐色化させてしまうのです。

鉢に苔を盛って栽培する場合、用土の通気性が良すぎるとまず間違いなく2〜3ヵ月で苔の調子が悪くなってきます。

そのため、苔を盛り付けることを前提とした盆栽を作るときは通気性がよくなりすぎないような用土を作る必要があります。

それでは、樹木の方がうまく育たないのでは?と心配されるかもしれませんが実は特に若い苗においては一般的な盆栽用土よりもこの通気性を抑えた用土の方がずっとうまく育つのです。

メインはごく普通の園芸用土

クロマツやカエデの盆栽をごく普通の園芸用土で栽培するのは盆栽のイロハからすると邪道です。これは盆栽のプロ、玄人の方であればあるほどツッコミを入れたくなるのではないかと思います。

園芸用土には本来無用である肥料分が多く含まれており、しかもそのために雑菌が繁殖しやすいからです。特にマツの仲間に富栄養な用土を使用するのはデメリットが大きいのです。

そのため盆栽では黒土、赤玉土、川砂など有機物の含有がほとんどないものを使用するのがセオリーとなっていますし、これはこれで理にかなっています。

しかし実際には園芸用土は盆栽においてもメインの用土として十分使えるばかりか、苔の栽培にとっても具合がよくなります。特に実生から1〜2年生までの時期には、植え替えに園芸用土を多めに使ったものの方が成功率が高くなります。

とはいえ富栄養な環境での長期栽培は樹体を脆弱にしますので植え替えごとに徐々に園芸用土の比率を減らせば良いのです。

園芸用土:スミリン土太郎

正直に申し上げて、パッケージのデザインから受けた第一印象からはその中身の素晴らしさは伝わってきませんでした。

その道うん10年、バリバリの作庭園芸家さんから試行錯誤を積み重ね色々試した果てに結局これにたどり着いたとのお勧めをいただいたときは、この隙がありすぎるパッケージデザインとネーミングに「何かの間違いでは?」と疑念をいだきましたが、実際に使ってみると確かに安定して育ちます。

通気性、保水力、水はけ、元肥のさじ加減、完全に乾いた状態からの戻りのよさ。どれもがちょうどいい塩梅になっていて、とても使いやすい園芸用土です。

川砂はほとんど使用しません

川砂は水はけを確保するために必要ですが、必要最低限の 5%未満の使用にとどめます。※マツの仲間の場合これよりさらに 5〜10%ほど多めに配合します。

通常の赤玉土や鹿沼土(かぬまつち)は一切使いません

赤玉土や鹿沼土は水はけと保水両方に有効な盆栽の必須底床材ですがこれも不使用です。赤玉土は硬く焼き固めた「焼成赤玉土」のみを底砂利として使用します。

ただ2回目の植え替えの際、水はけと通気性を増すために細粒の焼成赤玉土を用土に2〜3割程度混ぜ込むことがあります。

焼成赤玉土:三本線 超硬質焼成 赤玉土

焼成赤玉土はかなりの種類が販売されており、選択に苦労しましたが今ではこの商品一択です。コストと品質のバランスがとてもよいです。

「超硬質」と謳うだけあり硬度が高く使い終わった後の容器の底に残る潰れたり粉になった粒が少ないのが特徴。